2011年3月30日水曜日

放射線をさえぎる

昨日はつまんないことのためにブログを更新できませんでした。今日は、放射線をさえぎる話をしてみたいと思います。

人生いろいろ、放射線もいろいろ

前回までの話で放射線には、α線、Β線、γ線なんて種類があるという話をしました。ええと、α線とβ線電気を帯びた粒が高速にとんでくるもの、γ線は極めて波長の短い(エネルギーの高い)電波という事でしたね。実は原子炉ではこれらの放射線の他、中性子線というのも使われています。
原子核分裂の説明で出てきたのですが、ウランやプルトニウムを分裂させる弾丸として使われるものです。これも放射線の一種類に数えれば、放射線のタイプは以下の3種類になります
  • 電気を帯びたちっちゃな粒が高速でとんでくるもの(α、Β線)
  • 波長の短い電波(γ線)
  • 電気を帯びてないちっちゃな粒が高速でとんでくるもの(中性子線)
これらの中で、電気を帯びたちっちゃな粒、これをさえぎるのは比較的容易です。なぜならば、これらは盛大にエネルギーを落としながら飛んでくるので、空気でもさえぎることができてしまいます。
具体的には238Uの出すα線の場合、空気中で10cmで止まりますし、232Thが出すβ線は空気中で2.6m、アルミニウムの板を使えば4mmの厚さで、ほぼさえぎることができます。ですから放射線を出す放射性元素がある場所のすぐ近くに行くとか、放射性元素を体内に取り込まない限り、そんなに気にしなくて良いと言っても良いです。

次に波長の短い電波、これはちょいと厄介です。このタイプの放射線は電波である間はあまり人間に悪さをしません。ただ、何か物質に入射して、そこで電子を蹴っ飛ばし(コンプトン効果)、その電子が悪さをするタイプだからです。電波をさえぎるには原子番号の大きな重い元素が効率的です。前々回に示した周期表を見てみると、原子番号82のPb(鉛)が原子番号が大きく安価な材料です。もちろん鉛より重い元素を使えば、より効率よくγ線をさえぎることができますが、鉛より重い元素は高価であったりそれ自身が放射能を持つなど、問題がありますので、一般にγ線をさえぎるには鉛が使われます。
また、電気を帯びたちっちゃな粒と違って電波系(笑)の放射線は、コンプトン効果によって電子を蹴っ飛ばせばエネルギーが減少しますが、電子を蹴っ飛ばさないまま鉛を通り抜けちゃう場合もあり、その場合にはエネルギーは減少しません。なので、どれだけの厚さを持つ鉛の板で完全に遮蔽することができるかという数値を示すことができません。示すことができる数値は、元の強さの半分になるとか、1/10になるって厚さです。で、実際はどうなのかというと、40Kが出すγ線の場合、空気だと半分にするには大体110m、1/10にするには大体370m必要です。また鉛の場合には半分にするには大体1.2cm、1/10にするには大体4cmの厚さが必要なります(参考:放射性鉱物の取扱いと保管)。


最後に中性子ですが、こいつが一番厄介な相手です。中性子は電気を帯びていませんが、水素の原子核などに衝突すると、そいつを跳ね飛ばして陽子線という放射線を作り出します。また中性子自体は電気を帯びていないので、物質中を通過しても素通りしてしまい、電離作用などでエネルギーを落としてくれません。「なんだ、陽子線か、、、電気を帯びた粒なんだからβ線とほぼ同じでしょ、なら鉛の板で充分防げるじゃん」って思うかもしれませんが、問題は水素がどこにあるかって問題です。私たちの身の回りで、大量に水素がどこにあるかって言うと、実は私たち自身の身体なんですね!。私たちの身体のかなりの部分は水、すなわちH2Oで、できています。中性子は家の壁や、鉛の防護服をやすやすと素通りして、人体中に含まれる水の水素原子と衝突して、体内で陽子線を作り出しちゃうんです。ええと、中性子爆弾って聞いたことあるでしょうか? 中性子爆弾ってのは核兵器の一種なのですが、普通の核兵器と違って中性子をたくさん出すタイプの爆弾です。この中性子爆弾の爆風などは抑えてあるので、そんなに強くありません。ですが、水を含んだ生命体には致命的な影響を与えるんですね。いわば建物などにはあまり被害を与えず、人間(まあ、動物や植物も)を選択的に殺しちゃう兵器なのですが、それができるのは、この中性子の性質によるものです。
それでは、この中性子をさえぎるにはどうしたらいいでしょうか? 実は、中性子を防ぐ能力が高く安価なものは「水」です。それはどうしてか、以下で考えてみましょう。
まず、パチンコ玉を中性子としましょう。このパチンコ玉(中性子)を思いっきり、ボーリングの玉が並んでいる中に投げ入れることを想像してください。ここでボーリングの玉は鉛などの重い元素の原子核に相当します。当然、投げ入れられたパチンコ玉はボーリング玉に当たりますが、勢いをあまりそがれないまま跳ね返ってしまうでしょう。ですので、鉛など重い元素では中性子の持っているエネルギーを効率良く奪うことはできません。
では、次にパチンコ玉を思いっきり、ピンポンの玉が並んでいる中に投げ入れることを想像します。ここでポンポン玉は電子に相当します。当然、投げ入れられたパチンコ玉は、ピンポン玉と衝突しますが、ピンポン玉はかなりの勢いで跳ね飛ばされるでしょうが、ピンポン玉自体は軽いので、パチンコ玉の持っているエネルギーを効率良く奪うことはできません。
じゃあ、最後に、パチンコ玉を思いっきり、ほぼ同じ重さのパチンコの玉が並んでいる中に投げ入れることを想像します。このとき、投げ入れられたパチンコ玉は、他のパチンコ玉と衝突するごとに、自分の持っているエネルギーの半分を衝突相手に渡し、効率よくエネルギーを失ってゆきます。
なので、中性子をさえぎるには、水素をたくさん含んだ「水」が安価でもっとも効率のよいものになります。また、水素を多く含むパラフィン(CnH2n+2)も中性子の防護材として有効な物質です。
ただ、このやっかいな中性子でも、空気中を何Kmも飛ぶことは考えられません。


防護の基本は、放射線源から離れること


さて、それでは、原発からの放射線から身を守るために一番いいことは何か? というと、「放射線源から離れる」こと、その事にまさる防護策はありません。では、どのくらい離れれば良いのかというと、まあ数Kmも離れれば、よっぽど強い放射線源(例えば核兵器)でない限り大丈夫でしょう。
それでは「何で福島原発では、周囲数十Kmの範囲で避難指示や勧告が出ているの?」かというと、実は、放射線源、すなわち放射性元素が原発から出て周囲に飛び散っちゃっているからなんですね。これでは、人間がいくら原発から離れても、放射性元素が追っかけてくるわけですから、意味はありません。
原発から、数十Km以上離れたところから放射線が検出されるということは、原発から大量の放射線が出ているのではなく、(多分原発由来の)放射性元素がそこまで飛んできているということを意味します。


次回は、原発で生まれる放射性元素って、テーマで書くことにします。

0 件のコメント:

コメントを投稿